中小企業白書2006年版を解説した以下のような内容の記事を目にしました。
” 個人事業は創業後1年後に40%は廃業し、5年後は25%、10年後には約10%しか生き残れない ”
非常に厳しい内容で身が引き締まる思いです。事業が継続出来なくなる理由はさまざまですが、主たる理由は「手元に使えるお金がなくなった」ということです。創業時に準備した手元キャッシュのその後の変動を考え、どのような場合に廃業に至るかをシミュレーションで見ることにしました。
注 : 中小企業庁のデータは製造業が対象であり全業種平均でこのようになっているのかどうかは不明です。
中小企業庁発表のデータは、ある年に生き残った企業が次の年にどれだけ生き残っているかというサバイバルデータを、創業年次ごとに追跡したものです。詳細は当該サイトをご覧いただきたいと思いますが、図Sa-2にグラフ化したデータを示します。法人・個人を問わず創業後3年間の生き残りが重要であることが見てとれます。また、個人事業の方が資金繰りが厳しく、生存率が低くなっています。
図Sa-2 中小企業白書2006データからグラフ化
上記データから計算した、創業後の経過年数別の累積生存率(結局創業後どれだけ生き残ったのか)を図Sa-3に示します。ここから個人事業では以下の数値が見て取れます。
◆創業1年後の生存率62%(約60%) 38%(約40%)が廃業
◆5年後の生存率は26%(約25%)
◆10年後の生存率は12%(約10%)
この、きれいに減衰する曲線をサバイバルカーブと考えることができます。この曲線は平均的なものなので、実際はさまざまなサバイバルカーブが存在するのではないか?というインサイトを得ます(図Sa-4)。
そこで、手元キャッシュがどのような条件(変動率分布)ならこのカーブに沿って生存率が減少するのかを検討してみました。図Sa-5にその一部を示します。縦軸は月末手元キャッシュ率(対創業時)で横軸は経過月数です。自由になる(借金も含めて)キャッシュが枯渇すると事業が続けられなくなります。これはシミュレーションなので、廃業ゾーン入りしてもデータは続いています。
そして、あるキャッシュ変動率パラメータが特定の値のときに、図Sa-3に近い生存率カーブが生成することがわかりました。図Sa-6は個人事業の場合の1年後、5年後および10年後の姿を示します(片対数グラフ)。縦軸はキャッシュ保有率(対創業時)、横軸は100回のシミュレーションによるキャッシュ保有率の予想ランキングですが、廃業ゾーンとの交点の数字は生存率(%)を示します。経年によって淘汰されていく様子が再現されています。
この方法は、スタートアップ企業の生存率向上マネジメントに利用できる可能性があります。